ヒッピーとか旅人みたいな生き方に憧れがあって、年に5回も転居した事がある。まあ異動とかの関係なんだけど、引っ越しが好きだから自ら望んで配属先を増やしたりしてたんだ。色んな街を行き来するのが楽しかった。だから、俺に持ち家なんて要らないと思っていた。むしろ、荷物でしかない。賃貸の方が移動しやすいし、各地を転々としていたい。それが今までの考え方だ。
仕事が終わって家に帰ると、ポストに紙が入っていた。不動産のチラシだ。今の家賃と同じ額で家が持てるらしい。ここよりよっぽど広くて設備が充実している。同じ金額払うなら、そっちの方がよっぽど良かった。
引っ越して結婚して、正社員になった。俺はこの街で生きていくと決めた。もう転職活動なんてしたくないし、そういう年齢や状況でもなくなってきた。ここから大して動くつもりがないのなら、家を買うのがいいかもしれない。ずっと住むなら広い方が居心地良いからな。
今は一人用の布団に二人で寝てる。肌が触れ合うから俺は好きだけど、夫婦でデカいから確かに窮屈。妻は狭いとよく言う。
もう、家を買おう。
帰りに買った惣菜を食べながら、夫婦で話し合った。
「すぐ買うって言いそう」
妻はそう言う。俺の事だから即決するだろうと。確かに決断は早い方だ。良いと思ったら違約金を払って即刻退去するだろう。
妻と食事をする時間は楽しい。だが、部屋が狭ければ机も小さい。今日みたいに惣菜をいっぱい買った日は、全部を卓上に並べられない。家具付きの賃貸だから、自分達に合ってない家具だ。
もっと、良い所に住もう。
チラシを見る分には妻も良さげだと言っていた。去年、何かのキッカケで「こういう家に住みたい」みたいな話をしていたが、その条件に合う家で、運命を感じた。神様がここに住めと言っているんだ。
昨日、「未来の自分は想像もしない事をしている」的な事を言った。まさにその次の日、人生を変える出来事があった。
見学に行って実際見てみると気に入らないかもしれないけど、家を買いたい気持ちは変わらない気がする。
人生、どうなるかわからないものだなぁ。奇想天外。だからこそ、面白い。