今週のお題「急に寒いやん」
俺が小学生以来、久しぶりにネカフェへ来たのには理由がある。その経緯を話すには、11月2日に何があったのかを記す必要があるだろう。
朝方に、社長や親会社のお偉いさん、本部の方などから電話がかかってきていた。しかし、仕込みでミキサーを起動していたり、マナーモードにしていた事も相まって、その電話には気付かなかった。
しばらくして、ランチタイムのピークに追われていた時、直属の上司からの電話がきて、俺に多数の電話がかかってきていた事実を知る。
会社が、今日付けで倒産したのだ。
正直、その事はわかっていた。俺が以前配属されていた店舗のパートさんから、俺の彼女へ、店に上司が弁護士連れて現れ、会社が倒産し、社員は本日付で解雇になると伝えて一悶着あった、と連絡があった。
というか、数か月前から、「年内に倒産するかも」という趣旨は上司から聞いていた。そして、俺だけは倒産しても、別会社に移籍できる事も聞いていた。だから、俺だけは安泰だと思っていた。なのに、想定していた状況とは違う事態になった。
今月振り込まれるはずの給料が、一円たりとも出ないと言うのである。その代わり、国からの補助金だかなんだかが出るらしいが、その振り込みがいつになるのかわからない。
なのに解雇、と。あまつさえ、上司から言われていた別会社へ移籍するという話も、「確定ではない」と本部に言われた。「極力そうなるように努力する」とは言われたけど・・・。
これを聞いて、キレない奴がどこにいるだろうか?
俺が東京まで研修に行って頑張っているというのに、急に「倒産するし、給料払えません」というような社長。そんな奴が経営する別会社に残る意味はあるのだろうか?
不信感しかない、というのが正直な心情。
社員をなんだと思っているんだ。俺の頑張りが水の泡だ。『出世する』というモチベーションさえ消え失せた。別会社で頑張っていく理由なんて無くなった。無能な社長についていけない。俺は社長からパワハラを受けた時点で、この会社への忠誠心みたいなものは無くなっていたし、ただサラリーマンとして金を稼ぐ為に働いていたに過ぎない。
その給料すら払えないような社長のそばに、もう居たくないのだ。
本社が、師匠の店の近くにあるので、解雇を宣告された帰りに寄った。
「また雇ってほしい」と言ったが、断れた。師匠がそう言うのもわかる。師弟関係な訳だから、甘えた事は言えない。修業を終えて、「新天地で成長しろ」と言われていたんだ。新しい場所で前に進むと、俺自身が決めたんだ。
信用経済という言葉がある。信用を積む事が、金を積む事になる。
社員やパートアルバイトから誰一人として信用されていない、人望のない社長が会社を畳むのは当然の結果だ。
そして、今の俺に金が無いのも、信用が無いからなんだな、というのを痛感した。
彼女から「あなたと一緒にいても、これから幸せになれるなんて、信用できない」と言われた。
そう言われるのも無理はない。今の俺に金は無い。これから転職しようとしたら、寮に住んでるから家も無い。そして、「別れたい」、「一緒にならなければ良かった」とまで言われた。
俺は、彼女まで失う事になるのか。
今の俺に何が残る?
仕事も家も、愛する女性も失うのか?
出世したいが為に役員の仕事まで貰って徹夜した頑張りも無駄になったし、住む所は無くなるし、彼女からは別れを告げられるし、その彼女との恋愛を身内に認められなくて縁を切ったし、俺が積み上げてきたつもりだった事柄が、何も無いという現実を受け入れるしかなくなっている。
俺が良かれと思ってやってきた努力が、結果として実らなかった。
なんなんだよ俺の人生。俺がなにしたっていうんだよ。
昼間、上司に「自棄を起こすなよ」と言われたけど、自暴自棄にならずにはいられないだろうが。こんな状況で。
俺はただ幸せになりたくて、俺を愛し、俺が愛している女性も幸せにしたかっただけなんだ。なのに、今は双方ともに不幸な現状じゃないか。ふざけんなよ。
彼女の為を思って良かれと思ってやってきた事もみな、無駄になるのだろうか。理想のデートも、欲しがっていた物も、新鮮な日々を提供してきたのは全て過去になって、今現在が彼女にとっての不幸になっているから、別れたいと泣かせる破目になってる。
こんなはずじゃなかった。
俺は全てを失わなくちゃいけないのか?
嫌だよ。俺は意地でも幸せな未来を掴みたいんだよ。クソが。
どうしたらいい?
なんで俺の人生は上手くいかない?
誰に問うたらいいかわからない疑問ばかりが湧いてくる。
もう俺は「死にたい」なんて言いたくねえんだ。生きてみせる。生きて、幸せになってやるんだ。
ただ、最近になって彼女がよく言う。
「幸せってなに? わからない」
俺はそれに答える。
「2人で一緒にいられる時間が、幸せじゃない?」
その返事に、彼女は納得しなかった。それが何を意味するのか。考察する事も恐ろしい。薄々気付いていた現実から、俺は、目を背けたかったのだ。
師匠の店で飲んだ帰り、彼女が電話で同じ発言をした。また言わせてしまった。
「未来は幸せだって信じようよ。俺に同じこと言ってくれた事あるじゃん」
「頼りない男の、何を信用しろって言うの?」
それに何も言い返せない自分が情けない。こう言うしかなかった。
「・・・それは、別れるって意味?」
「別れても行くとこないから、仕方なく居る」
行くとこあったら別れてる、みたいな趣旨も言ってたっけ。
それは既に恋愛感情が無い事を意味しているし、事実、もう俺に「愛してる」なんて言わなくなった。俺の方から「好き」とか「愛してる」って言っても、無視するか「うん」、「わかった」と答えるだけ。
こんなはずじゃなかった。誰がこんな現状を望んだというのだろうか?
幸せって何なんだろう。改めて考える。
俺は、二人で愛し合っている時が、それが今までにない、人生で一番の至福だった。愛こそ幸せなんだよ。それは間違いない。愛に生きる以外、幸せになる道は無い。
それに気付いたからこそ、その為の行動を意識して、生きていく。
俺は、俺を愛してくれる人を幸せにしたいし、俺も幸せになりたいんだ。心の底から幸せを感じたい。
絶対に俺は、幸せになってやる。